公益社団法人 熊本県理学療法士協会

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「熊本を襲った地震と津波から減災の手がかりを考えよう」【シリーズ1】

熊本でも過去に大きな地震や津波があった!(その1)

 昨年3月に発生した東日本大震災による津波被害は甚大でした。多尊い命が一瞬にして奪われ、多くの被災者が今なおその爪あとに苦しんでいます。私たちの暮らしもいつどこで、何が起こるかわかりません。常に危機意識を持って「もしもの時に備える」ことが大事です。
 皆さんもご存知かと思いますが、熊本でもその昔、とても大きな地震や津波がありました。地震は「熊本地震」として、津波は「島原大変肥後迷惑」として史料に記録されています。 地震や津波が起こった時、自由が利く皆さん人は避難手段をいくつも選ぶことができます。一方で、お年寄りや障がいをお持ちの方は、避難自体に多くの手助けが必要になります。災害時要援護者といいますが、私たちはこのような方々も数多く地域の中で生活していることを知っておくことが大事です。その上でどう減災に取り組むか、常日頃から考えておくことが重要です。
 シリーズ第1回目は1889年に発生した「熊本地震」についてその概要をお話してみましょう。
 熊本地震は、日本で本格的な機器観測を開始して初めての大規模地震(推定M6.3)とされ、また都市を襲った直下型地震としてとても重要だとされています。
7月28日に本震、8月3日には最大規模な余震(推定M4〜5)が発生、震央が金峰山周辺域であったことから、「金峰山が崩壊する」といったデマも流れ、熊本市内から人影が消えたという記録が残されています。
 この地震による被害の特徴は大規模に発生した金峰山山体周辺での裂地と耕宅地の崩壊及び液状化にあります。特に液状化については、噴砂、噴水、井戸水の混濁等が白川、坪井川にそった流域にまとまって発生していること、8月3日に発生した余震によっても再液状化が発生した場所があるなど、地震規模が比較的小さくても発生する液状化再発事例として重視されています。
 地震による被害は熊本市を含む飽田郡、詫麻郡(ほとんどは現熊本市)に集中しており、この地域の全壊家屋は倒壊家屋全体の約80%、半壊家屋では半壊家屋全体の83%を占めています。また、死者20名すべてがこの地域で発生し、建物崩壊による圧死であったことが記されています。このような建物の倒壊による圧死は阪神淡路大震災で特徴的で、都市型、直下型の特徴ともいえます。
その他、裂地は全体の78%(693ヶ所)、宅地の崩壊は全体98%(3269ヶ所)がこの地域で発生しているものの、金峰山をまたいだ玉名郡においても裂地が16%(142ヶ所)発生しています。
 被害が甚大であった熊本市、飽田郡、詫麻郡をさらに詳細にみてみると、当時の市町村名で家屋の被害が大きい地域は、旧熊本市、高橋町、花園村、川尻町、画図村、芳野村でこれに相対するように人的被害も熊本市、高橋町、川尻町に集中しています。
 一方、裂地、耕宅地崩壊については、旧河内村、芳野村、松尾村の被害が大きく、これに船津村、池田村と続いています。このように、地盤被害は金峰山周辺の急傾斜地を擁する山間内陸地域と沿岸地域に進展して広がる傾向が読み取れます。
(つづく)


【作図資料】
1889年行政区ベクタデータ:
筑波大学 空間情報科学 行政界変遷図データベース研究会 行政界変遷データベース(地図データ)を使用した。なお、行政区高橋町については統計GIS平成17年国勢調査小地域 ベクタデータからポリゴンデータを抽出し、ジオリファレンスした後、1889年版行政区ベクタデータと連結し新たな行政区ポリゴンデータを作成した。 http://giswin.geo.tsukuba.ac.jp/teacher/murayama/boundary/dl_shapes.html

沿岸部線データ:
統計GIS平成17年国勢調査(小地域)ベクタデータから地理情報支援システムMANDARAを使用し、線オブジェクトとして沿岸部線情報を切り出し分析用線データを作成した。

地震データ:
鎌田 輝男氏が作成したフリーソフト地震検索システムEQLISTから1889年以降熊本県内に震源を有するマグニチュード4以上の地震データをテキスト情報として抽出し“度分秒”データからdegree度分秒に表計算ソフトEXCELを用いて変換した。なお変換式は、下記の通りである。

緯度経度変換式:
INT(経度・緯度度分秒)+INT((経度・緯度度分秒-INT(経度・緯度度分秒))*100)/60+(経度・緯度度分秒*100-INT(経度・緯度度分秒*100))*100/3600
震度1以上の有感地震データについては、気象庁震度データベースから熊本県内で発生した2011年4月〜2011年3月までのデータを使用した。なお、作図には地理情報支援システムMANDARAを使用し、shapeファイルとしてベクタデータを作成後、Google Earth用kmlファイルにフリーウェアShp2kml使用して変換、Google Earthに表示した。

建物データ:
基盤地図情報ダウンロードサービス
(http://fgd.gsi.go.jp/download/)からJPGIS(GML)縮尺レベル2500データ(旧熊本市)をダウンロードしMANDARAを用いて、地図情報に変換し属性データとして普通建物、堅牢建物別に分析データを作成した。

標高データ:
基盤地図情報ダウンロードサービスから基盤地図情報10mメッシュデータをダウンロードし、MANDARAを用いて、標高別にポリゴンデータとして地図情報に変換し取り込んだ。

年齢別人口データ:
行政区分および小地域のデータは統計GIS平成17年国勢調査(小地域)を使用、境界データは世界測地系緯度経度・Shape形式ファイルを使用した。


【文献資料】

1.都司嘉宣,日野貴之(1993)「寛政四年(1792)島原半島眉山の崩壊に伴う有明海津波の熊本県側における被 害、及び沿岸部遡上高」地震研究所彙報,東京大学地震研究所

2.宮崎雅徳,尻無濱昭三(1989)「熊本地震(M=6.3 1889)の評価と地盤災害に関する研究」日本建築学会大会学 術講演梗概集(九州),日本建築学会

3.宮崎雅徳,尻無濱昭三(1990)「熊本地震(M=6.3 1889)の評価と地盤災害に関する研究(2)−震央距離・地 形と裂地の関係に付いて−」日本建築学会大会学術講演梗概集(中国),日本建築学会
4.宮崎雅徳,尻無濱昭三,大森公則(1991)「熊本地震(M=6.3 1889)の評価と地盤災害に関する研究(3)−地 盤崩壊及び立田山断層・震央距離の関係−」日本建築学会九州支部研究報告,第32号

5.宮崎雅徳,尻無濱昭三,崎浜博史,松金重之(1991)「熊本地震(M=6.3 1889)の評価と地盤災害に関する研究 (4)−木造家屋被害と立田山断層及び地形地質との関係−」日本建築学会大会学術講演梗概集(東北),日本建築学会

6.宮崎雅徳,尻無濱昭三,崎浜博史,松金重之(1992)「熊本地震(M=6.3 1889)の評価と地盤災害に関する研究 (5)−地震災害に基づく熊本地震の断層モデルの検討−」日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸),日本建築学会

7.宮崎雅徳,尻無濱昭三,崎浜博史(1993)「熊本地震(M=6.3 1889)の評価と地盤災害に関する研究(6)−地 震災害と断層モデルの関係について−」日本建築学会大会学術講演梗概集(関東),日本建築学会

8.宮崎雅徳,尻無濱昭三,松金重之(1992)「アンケート調査に基づく地震震度分布と都市地盤危険度(1)−熊本 市近傍の小地震による高密度震度分布−」日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸),日本建築学会

9.宮崎雅徳,出口浩,尻無濱昭三,吉田真一郎(2001)「2000年6月8日に熊本地方で発生した地震(MJMA=4.8)の地表面地震動強さと木造家屋被害について」日本建築学会大会学術講演梗概集(関東),日本建築学会

10.今村明恒(1920)「九州地震帯」震災豫防調査會報告92,震災豫防調査會,東京大学

11.宮崎雅徳,梅田慎一,尻無濱昭三(1997)「熊本地震の震央域における地震動強さの推定と木造家屋被害」日本 建築学会九州支部研究報告,第36号

12.宮崎雅徳,尻無濱昭三(1990)「地盤災害から見た熊本地震(1889)の再評価−熊本市・周辺域の地烈と液状 化について−」日本建築学会中国・九州支部研究報告,第8号
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